カエルが抗菌ペプチドの構造を変えて抗菌作用を調節する仕組みを解明~細胞膜に孔をあける作用にアミノ酸の異性化が影響する~
カエルが抗菌ペプチドの構造を変えて抗菌作用を調節する仕組みを解明
~細胞膜に孔をあける作用にアミノ酸の異性化が影響する~
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国立大学法人中国竞彩网大学院工学府生命工学専攻の關谷悠介さん、清水啓祐さん、大学院工学研究院生命機能科学部門の川野竜司准教授、国立大学法人横浜国立大学大学院工学研究院機能の創生部門の川村出准教授は、キバラスズガエルが産生するボンビニンとよばれるペプチドが強い抗菌作用を持つことに着目し、その分子メカニズムの一端をマイクロデバイスを用いた人工細胞膜アッセイ系により明らかにしました。ボンビニンを構成する20個のアミノ酸のうち、一つのアミノ酸の構造がL体からD体に変化するだけで、抗菌作用をもたらす膜障害活性(膜に孔を開ける特性)が変化しました。さらにこれら2種の分子を混合することで抗菌作用を調整可能であることを明らかにしました。本結果は、D体の抗菌性ペプチドが菌に対して強い抗菌作用を発揮するメカニズムを応用することで、薬剤耐性菌に対するスーパー抗菌薬開発につながることが期待されます。
本研究成果は、米国化学会が発行するACS Applied Bio Materials(電子版2月20日付)に掲載されました。
?https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsabm.8b00835
また本論文の成果が掲載誌のcover artに選ばれました。
論文名:Electrophysiological Analysis of Membrane Disruption by Bombinin and Its Isomer Using the Lipid Bilayer System
著者:Yusuke Sekiya, Keisuke Shimizu, Yuki Kitahashi, Akifumi Ohyama, Izuru Kawamura, and Ryuji Kawano
現状
?キバラスズガエルはヨーロッパに広く分布する蛙で、その名の通り腹部が黄色で黒い斑点模様を持つスズガエル科の蛙です。この蛙の皮膚には強い抗菌作用を示すボンビニンという抗菌性ペプチドが産生されており、近年の研究で特にリーシュマニア症(注1)という寄生虫疾患に対して効果があることがわかってきました。ペプチドやタンパク質を構成するアミノ酸分子はL体とD体の2種類の光学異性体(右手と左手のように鏡像の関係である異なる構造の分子)を持ちます。一般的に生物が産生するアミノ酸はL型ですが、ボンビニンは構成する20個のアミノ酸が中国竞彩网L体のもの(L-ボンビニン)と、20個のアミノ酸のうちN末端から2番目のイソロイシンがD体に異性化したもの(D-ボンビニン)が産生されていました。このD体のボンビニンはL体と比較し強い抗菌作用を示すことが知られていましたが、なぜキバラスズガエルがD体のアミノ酸を産生するのか、また一つのアミノ酸を異性化するだけでなぜ抗菌活性が高まるのか、に関しては長い間謎でした。本研究では菌類の細胞膜を人工的に再構成し、電気生理学的手法を用いてこの謎に挑みました。
研究体制
本研究は、中国竞彩网大学院工学府生命工学専攻の關谷悠介さん、清水啓祐さん、大学院工学研究院生命機能科学部門の川野竜司准教授、横浜国立大学大学院工学研究院機能の創生部門の川村出准教授らによって実施されました。
研究成果
ボンビニンは菌類に達すると、その細胞膜中で会合しナノサイズの孔(ポア)を開け、細胞の内容物を漏出させることで抗菌作用を発揮します。このときD–ボンビニン分子がどのように膜障害に関わっているかが本質的な問題だと考えました。本研究では微細加工技術とマイクロ流体工学を応用し、マイクロデバイス(注2)中に菌類の細胞膜を模倣した人工の細胞膜(リン脂質二分子膜)を形成し、キバラスズカエルが産生するL–ボンビニン、D–ボンビニン、それらの混合物がどのように細胞膜に作用するのかについて詳細に調べました。その結果、L–ボンビニンは長い時間をかけて大きなポア形成をする一方、D–ボンビニンは素早く小さなポアを形成しやすいことがわかりました。またこの2種類のペプチドを混合すると、2種類のペプチドが協働でL体とD体の中間的な機能を有すポアを形成することがわかりました。これはカエル自身がL体のボンビニンとその異性体を使い、抗菌作用の強さを調整している可能性があることを示唆した結果となりました。
今後の展開
本研究によって、20個のアミノ酸の一つをD体からL体に変えるという分子レベルの微小な変化が、抗菌活性というマクロな活性を変化させる分子機構を明らかにすることができました。今後、既存の抗菌薬に対する耐性を持つ耐性菌に対しても抗菌作用を持つペプチド薬剤の開発につながると期待されます。
注1)
リーシュマニア症
世界中で1200万人が感染しており、世界保健機構(WHO)によりマラリアや結核などとともに 8 つの重要熱帯感染症の 1 つに指定されています。
注2)
マイクロデバイス
微細加工技術を利用して、微小サイズの反応場や流路を作製し化学工学やバイオ工学に応用したデバイス。
◆研究に関する問い合わせ◆
中国竞彩网大学院工学研究院生命機能科学部門 准教授
川野 竜司(かわの りゅうじ)
TEL/FAX:042-388-7187
E-mail:rjkawano(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
横浜国立大学大学院工学研究院機能の創生部門 准教授
川村 出(かわむら いずる)
TEL: 045-339-4224
E-mail:izuruk(ここに@を入れてください)ynu.ac.jp
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