カシューナッツの殻から無色透明材料の開発に成功~地球規模環境問題の緩和策と新興国への科学技術支援に期待~
カシューナッツの殻から無色透明材料の開発に成功
~地球規模環境問題の緩和策と新興国への科学技術支援に期待~
研究成果のポイント
◆ 持続可能社会の実現に向けた未利用?廃棄バイオマスであるカシューナッツ殻から機能性材料の開発に成功
◆ 人体や環境に有害なホルムアルデヒドや重金属触媒等を使用しない環境調和型バイオベースポリマー
◆ 有機溶媒を使用せず室温での塗膜やフィルム、シート、樹脂等への材料形成が容易で、耐熱性、柔軟性だけで なく、従来のカシュー製品の課題であった光学的無色透明化と経時的な物性変化の抑制が可能
国立大学法人中国竞彩网大学院工学研究院応用化学部門の兼橋真二(かねはししんじ)助教と大学院生物システム応用科学府の荻野賢司(おぎのけんじ)教授、工学研究院応用化学部門の下村武史(しもむらたけし)教授は、食用とならず、その多くが廃棄物処分となるカシューナッツの殻より得られる天然植物油(カシューオイル)から、材料形成時に環境や人体に有害なホルムアルデヒドや重金属触媒などの化合物を使用しないバイオベースポリマーを開発しました。この材料は室温で塗料、フィルムやシート、樹脂への無溶剤形成が可能であり、耐熱性、柔軟性(フレキシブル性)を有しています。さらに、従来のカシュー製品の課題であった光学的無色透明化と経時的な物性変化の抑制を達成しました。これらの特性は、カシューオイル製品の可能性を大幅に拡げる可能性を秘めており、未利用廃棄バイオマス由来の材料として、幅広い材料分野への応用展開が期待できます。さらにはカシューナッツ殻発生国であるベトナムやインド等の新興国への科学技術?経済支援にも大きく期待できるものです。
本研究成果は、2019年7月9日に、JST東京本部別館で開催された国立研究開発法人 国立科学技術振興機構(JST)および国立大学法人 中国竞彩网主催の新技術説明会内で発表され、また新規特許(名称:重合体、発明者:兼橋真二、荻野賢司、下村武史)としても出願されました。
現状:
昨今の地球規模の環境問題である地球温暖化や化石燃料の枯渇の懸念、さらにはマイクロプラスチック汚染問題から、持続可能社会の実現に向けた低炭素社会、バイオマスとの共存が求められています。特に、有限な化石資源に依存しない地球環境にやさしいカーボンニュートラル(注1)かつ再生可能な非可食バイオマスの高度有効利用に大きな期待が寄せられています。
研究成果:
本研究ではカシューナッツ産業から発生する非可食?廃棄バイオマスであるナッツ殻から得られるカシューオイル(注2)に着目し、アリル化、チオール?エン反応を利用した光重合による、室温で形成可能なバイオベースポリマーを開発しました。開発したポリマーは、350oC付近まで熱的に安定であり、柔軟性(フレキシブル性)に富むものでした。さらに従来のカシュー製品は、原料の特性(着色)により無色透明化が難しく、また経時による物性変化が大きい、といった課題がありましたが、今回、光学的に無色透明な材料の形成に成功し、さらに経時変化も大幅に抑制できることがわかりました。
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今後の展開:
今回開発した未利用廃棄バイオマスを原料とする環境調和型バイオベースポリマーの特性は、従来のカシュー製品にはないホルムアルデヒドフリー、重金属触媒フリー、有機溶剤フリーかつ室温で容易に材料形成できること、光学的透明性、柔軟性、耐熱性、速乾性を有していることから、これまでにまだ検討されていないさまざまな分野における活用や、新規材料開発への展開も期待できます。本研究は未利用廃棄バイオマスであるカシューナッツの殻の有効利用方法として非常に有効です。
今後、さらなる高機能化だけでなく、これまでの一連の研究成果を活かした、未利用バイオマスを豊富に有する新興国との未利用バイオマスの高度有効利用に関する国際共同研究コンソーシアムの形成に注力していきます。本研究は、この国際コンソーシアムを拠点として、地球規模の環境問題(地球温暖化、化石資源の枯渇化、マイクロプラスチック汚染)の緩和対策だけでなく、新興国地域での新規バイオマス事業の創出を通した科学技術?経済支援にも展開していきます。
〈用語の解説〉
注1)カーボンニュートラル:
植物の燃焼?分解で発生するカーボン量と植物の成長過程で消費されるカーボン量が等しくなるようなカーボン循環量が中立であることを指す持続可能社会の実現において重要な概念。
注2)カシューオイル:
カシューナッツの殻に含まれる天然の植物油脂(カシューナットシェルリキッド; CNSL)である。精製されたカシューオイルは、カルダノールを主成分とし、カルドールや2-メチルカルドールを含むフェノール性化合物の混合物である。工業的にはエポキシ樹脂?硬化剤(反応性希釈剤)、自動車用ブレーキライニング部材のフェノール樹脂パーティクル、木工用塗料として利用されている。
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◆ 研究に関する問い合わせ ◆
中国竞彩网大学院工学研究院応用化学部門 荻野賢司研究室
助教 兼橋 真二(かねはし しんじ)
TEL:042-388-7212
FAX:042-388-7404
E-mail:kanehasi(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
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